メタバース メタバースのビジネス活用

メタバースが教育現場に及ぼす効果とは?活用するメリットと事例4選

ゲームを中心に活用が進むメタバースは、教育業界でも注目を集めており、活用事例が続々と生まれている。

例えば早稲田大学法学部では、2023年秋学期より「メタバースと法」と銘打った授業を開校予定だ。授業はメタバース空間内で実施され、教員と学生はアバターで参加するというものである。

早稲田大学法学部は2023年10月から、インターネット上の仮想空間「メタバース」の法律上の課題などを考える授業を始める。授業はメタバース空間で行い、担当教員と受講生は全員、ネット上の分身「アバター」として参加する。

引用元:早稲田大法学部が「メタバース」テーマに授業新設 学生は全員アバターとなり参加

昨今では、教育系ゲームに強みを持つ企業がVRコンテンツを次々に開発。3Dによる没入型体験を、学校教育に上手く掛け合わせている。

義務教育や学習塾など、身近なところに「メタバース×教育」が段階的に浸透していくであろう。

メタバースが教育業界で注目されるのはなぜ?4つの理由を紹介

では、メタバースが教育業界で注目されている理由とは、一体何なのであろうか。

その理由は、以下の4つである。

ポイント

  • メタバースそのものが注目を浴びているから
  • メタバースと教育分野は相性が良いから
  • 新型コロナウイルスの感染拡大によりIT化が進んだから
  • 子どもにとってメタバースは身近だから

ここからは、上記4つの理由について、それぞれ詳しく見ていきたい。

メタバースそのものが注目を浴びているから

2022年10月、フェイスブック社がメタ社へ変更し、年間1兆円の投資計画を発表したことで、メタバースは世界中の注目を集めた。Google、Appleと、いずれもGAFAがメタバースの事業拡大を進めていることからも、いかにメタバースが世界規模で重要視されているかがわかる。

ゲーム分野では「Fortnite」、投資においては「Desentraland」などのNFT、SNSでは「VR Chat」が有名で、ユーザーの数は今も増え続けている。

日本でもclusterなどのサービスが話題となっており、トップ企業によるメタバース分野への参入が相次いでいるのだ。

メタバースと教育分野は相性が良いから

メタバースのベースである仮想空間は、パイロットの飛行訓練に端を発すると言われており、そもそもは教育・研修のために開発された技術だ。

教科書や資料集など、平面上ではわかりづらい内容を3Dコンテンツ化したり、学校や教室の設備では再現できない環境を再現したりすることも十分可能と考えられる。

新型コロナウイルスの感染拡大によりIT化が進んだから

感染症の拡大により、従来の対面授業を見直す必要に迫られた学校現場では、誰もがオンラインで授業を受けられる体制が急速に整備された。

2019年に文部科学省が打ち出した「GIGAスクール構想」により、生徒がタブレットを使用して授業を受ける形式も浸透し、生徒も教師も抵抗感が薄れているだろう。

自治体や地域によって差はあるものの、ITを活用した教育環境は確実に整備が進んでおり、ゆくゆくはメタバースの導入も現実的なものになると思われる。

子どもにとってメタバースは身近だから

子どもに人気の「Fortnite」「Minecraft」「あつまれどうぶつの森」は、メタバースとして位置付けられる代表的なゲームだ。

ゲーム機器以外にも、日頃からスマホやPCでオンラインゲームに触れているデジタルネイティブ世代からすれば、メタバースは身近な存在だろう。

ある調査では、Z世代(25歳以下)の実に58%がメタバースの利用に前向きだという結果が出ているなど、いかにメタバースが若い世代にとって身近であるかが分かる。

引用元:トランス・コスモス株式会社 消費者と企業のコミュニケーション実態調査 2022-2023

メタバースを教育分野で活用する5つのメリット

以上に挙げた通り、メタバースは教育との親和性が高く、教育分野のIT化やメタバースゲームの流行により、教育業界へのメタバース導入の下地も整いつつある。

では、メタバースが教育に取り入れられると、具体的にどのようなメリットがあるのか。

考えられる利点は、以下の5つである。

ポイント

  • ゲーム感覚で楽しく学習できる
  • 学校に通えない生徒でも参加できる
  • 子どもの想像力を刺激する学習体験
  • 失敗しながら学べる
  • 学習効率が向上する

ここからは、上記5つの理由について、それぞれ詳しく見ていきたい。

ゲーム感覚で楽しく学習できる

学習意欲が低い、授業や勉強に関心がない生徒であっても、メタバース空間上ならばゲーム感覚で学ぶことができる。

教科によって教え方を変えることで関心を引くのも可能だろうし、アバターを利用すれば他の生徒や教師ともコミュニケーションが取れる。

強いゲーム要素を含みながらも教育効果を高められるのは、メタバースの強みだろう。

学校に通えない生徒でも参加できる

誰でも等しく同じ体験ができるというメタバースの強みを活かせば、心身や家庭の事情などで、登校したくてもできない生徒も授業に参加することができる。

「周りと同じペースで勉強についていけない」というのは、学校生活から離脱してしまう要因となる。メタバースを活用することで、それを最小限に抑えることも可能だろう。

子どもの想像力を刺激する学習体験

メタバースが実現する教育では、子どもに想像・創造力を促し、分析力や思考力を育てる。

板書をノートに写し、教師の講義を聴くという従来の授業態度は、今後大きく評価されることはなくなってくるだろう。

メタバースは、子どもに本来備わった発想力や好奇心を伸ばしながら学力向上を促すことができる。

失敗しながら学べる

授業によっては、実験道具や鋭利な刃物など、取り扱いに注意を要する器具を使用することもあるだろう。

メタバース空間なら物理的な危険が身体に及ぶことがないので、生徒は失敗を恐れず授業内の取り組みに挑戦できる。

メタバースを通じて「自由に失敗していい」という考え方が身につけば、従来の減点主義的な在り方が見直され、生徒の創造力や主体性を育む加点主義的な教育風土につながる。

学習効率が向上する

従来の教材では、見る・読むだけで理解することを求められていたため、学習内容の理解に個人差が生まれやすかった。

メタバースでは全てが3Dコンテンツとなるので、人体や内臓の構造や、機械の操作手順など、これまでは平面図や文章でしかイメージできなかったものを立体的に理解できるようになる。

教科書で理解するスタイルを脱し、より効率的に学習できるようになる。

メタバースは教育分野でどのように活用できる?4つのアイディアを紹介

以上で紹介してきた通り、メタバースは学校教育にさまざまなメリットをもたらす。

実際、メタバースのメリットを最大限に活かし、教育現場で活用している例はいくつかあり、活用するにあたってはそれらの例がヒントになるだろう。

教育現場におけるメタバース活用手段としては、以下の4つが代表的だ。

ポイント

  • メタバース空間での授業
  • メタバース空間での学校行事
  • 学校そのものを仮想空間に再現
  • 障害者支援としての活用

ここからは、上記5つの活用方法について、実例を交えながら解説していきたい。

メタバース空間での授業

自宅で授業が受けられるオンライン授業と、仮想空間内の教室でクラスメイトと一緒に学べるメタバースを組み合わせれば、自宅にいながら学校で授業を受けているような感覚で学習できる。

米スタンフォード大学のジェレミー氏は、VRヘッドセットを用いたオンラインメタバース授業を行っているという。

米スタンフォード大学の教授、ジェレミー・ベイレンソン氏は、昨年からVRヘッドセットを用いた授業を行っている。

引用元:スタンフォード大学でVRを使った授業が行われる 普及への課題は「身体へのリスク」か

同氏によると、これまでバーチャル空間でグループ瞑想セッションやアート作品の鑑賞、パネルディスカッションを実施してきたとのだという。

メタバース空間での学校行事

メタバースを使えば、入学式や卒業式の他、運動会、オープンキャンパスなど、学校イベントをVR空間上で実施できる。

東京大学では、2022年度にメタバース空間で新歓オリエンテーションが行われた。学生サークル団体の立て看板を設置し、クリックすると詳細が見られるなどといった工夫が凝らされ、学生主体で学内のメタバース実用化が進んでいる。

東京大学バーチャルリアリティ教育研究センター(略称VRセンター:センター長 相澤清晴)ではデジタル環境下の仮想空間であるメタバースを本学の活動に利用する取り組みを進めています。
今春、その一環として、2022年度の本学学生サークルの新入生歓迎(新歓)オリエンテーションをメタバース空間で実施するプロジェクトを実施しました。

引用元:メタバース上でサークル新歓オリエンテーションを実施~Webブラウザから誰でも気軽にメタバース空間で参加~ (2022年5月24日掲載)

学校そのものを仮想空間に再現

学校やキャンパスそのものをバーチャル化し、仮想空間に設置する動きも各所で見られている。

大阪の阪南大学は、キャンパスをメタバース上に再現し、高校生に向けて大学生活や教員の研究活動等の情報を発信している。公開後10日で1万件以上のアクセス・200超の「いいね」があるなど、好評を博している模様。

阪南大学(所在地:大阪府松原市、学長:田上 博司)国際学部(2024年4月設置)が「バーチャル阪南大学*」をメタバース(仮想空間)上に開設した。

現実世界のキャンパスをメタバース上に忠実に再現し、大学キャンパスを疑似体験できる。

引用元:阪南大学がメタバースキャンパスを開設 ~完全再現された仮想空間キャンパスで、 新たなグローバルコミュニケーションの可能性を模索~

障がい者支援としての活用

メタバースは障がい者支援への活用も期待されている。

認知障がいなどを持つ学生が、対人コミュニケーション能力をはじめとする社会的スキルを修得できるよう、現実世界を模した空間で訓練を行う教育手法が考案されている。

また、聴覚や視覚などの不自由を疑似体験できる機能を備えれば、メタバースが福祉に対する理解を深めるきっかけになることも考えられるだろう。

出典元:中学生アイデア部門 グランプリ「メタバース・VRを使った障がい者教室・施設の仕事」 / 坂垣 璃音

メタバースを教育分野で活用する際の課題とは

以上から分かる通り、教育現場のいたる場面でメタバースの活用が進んでおり、本格的に導入されている実例も存在する。

しかしながら、やはり実際に現場で運用するとなると、すぐにはできないというのが実情なのも事実だろう。

メタバースの本格的な実用化に踏み切れない要因としては、以下の3つが挙げられる。

ポイント

  • メタバースの導入には初期費用がかかる
  • 教える側のITリテラシーがネックになる
  • コンテンツを揃えられない

ここからは、メタバース導入を困難にする3つの課題を紹介する。

メタバースの導入には初期費用がかかる

メタバースを活用した本格的な教育を展開するには、VRゴーグルやヘッドセットなどの専用機器が必須になってくる。

複数、あるいは質の高いものを求めるとなると、初期費用が数十万単位に膨らむことも考えられるので、予算に限りのある学校にとっては厳しい問題だ。

教える側のITリテラシーがネックになる

デジタル技術の取り扱いは、どうしても人によって得意不得意がある。

高齢だったり、デジタル技術への馴染みがなかったりといったリテラシーの差が、教育の質を左右してしまう可能性は十二分にある。

コンテンツを揃えられない

VR機器を揃えたとしても、コンテンツがなければメタバース空間で教育を展開できない。

開発企業への委託には数十万〜数百万円程度かかると言われており、コンテンツを用意するためのコストも大きなネックになる。

メタバースの教育分野への活用にはどんな影響がある?

従来型の学校教育と比較してみると、時間や場所、環境に捉われずに教育を受けられることがいかに画期的かお分かりいただけるだろう。

この技術がより進歩し、メタバースがさらに教育現場に浸透してゆけば、生徒は自分の好きな時に学習でき、本当にやりたいことに時間を充てて、自らが望む通りの自己成長を達成できる。

義務教育や高校、大学の他にも、社会人の学び直し(リカレント)や企業研修でも活用の幅が広がれば、これまで以上に効率的で充実した学びが提供され、人々のキャリア形成や人生設計にも大いに影響しうる。

終わりに

世界中の教育現場で活用が進んでいるメタバース。

実際に取り入れるには課題が山積みの学校も多いであろうが、教育の在り方は時代と共に変化していくものだ。

時代の変化に合わせた教育を展開していくため、本格的な導入を検討する未来が遠からず訪れるかもしれない。

メタバース×教育の最新状況を知る上で、本記事が役に立てば幸いである。

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