メタバースとは?定義や注目される理由、活用事例をわかりやすく解説

メタバース(meta verse)。つい最近まで脚光を浴びていたこの流行語も、今や生成AI(Generative AI)に地位を奪われ、MetaやGoogleなどのビッグテックも“新しいおもちゃ”に夢中になっている。

では、メタバースはまったくもって廃れてしまったのか。答えはノー。仮想空間を実現するための技術、そしてネットワークコミュニティはさらなる発展を遂げ、多くの注目を集めている。

なにより、流行のタームを過ぎた今でも、新規事業としてメタバースを取り入れる企業は多い。それは有用性が証明され、新たなビジネスを生み出してくれるからに他ならない。

もはや常識となりつつある、メタバースの概念。これからの社会を生きていく上で、その定義や「活用することで何ができるか」を正しく理解しておく必要がある。

メタバースとは?意味を「わかりやすく」「どこよりも詳しく」解説

「メタバース的なもの」にまったく触れたことがない人は、むしろ少ないのではないだろうか。

たとえば1982年の映画『トロン』や1999年の映画『マトリックス』は、現実空間とは異なる「もう一つの現実」の存在を描いている。これらのSF作品に共通するビジョンが、メタバースの源流だ。

メタバースとは何か。簡単に言えば、それは「インターネット上に構築された仮想現実空間」のこと。

自分自身の分身である「アバター」を操作し、コンピュータグラフィックの世界を縦横無尽に行き来する。現実世界とはレイヤーの異なる、しかし自らの意思をもって行動できる仮想現実世界のことを人々はメタバースと呼んでいる。

メタバースの定義とは?

メタバースは今日までにさまざまな定義がなされている。その中でも最も妥当だと考えられているのが、メタバースにいち早く注目した投資家、マシュー・ボールによるものだ。

彼は著書『ザ・メタバース 世界を創り変えしもの』にて、以下の定義を発表した。

リアルタイムにレンダリングされた3D仮想世界をいくつもつなぎ、相互に連携できるようにした大規模ネットワークで、永続的に同期体験ができるもの。

ユーザー数は実質無制限であり、かつ、ユーザーは一人ひとり、個としてそこに存在している感覚(センス・オブ・プレゼンス)を有する。

また、アイデンティティ、歴史、各種権利、オブジェクト、コミュニケーション、決済などのデータに連続性がある。

出典:マシュー・ボール. ザ・メタバース (Japanese Edition) (p.53). Kindle

本書でまとめられた、メタバースを実現するのに必要な7つの条件が以下だ。

かなり包括的な内容ではあるが、「仮想現実」という言葉をわかりやすく噛み砕いたものになっている。

メタバースの語源は?

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「メタバース(meta verse)」は「超越」を意味するメタ(meta)という言葉と、「宇宙」を意味するユニバース(universe)という言葉が組み合わされた造語である。

メタバースという言葉が初めて使用されたのは、1992年に出版されたSF小説『スノウ・クラッシュ』だ。ニール・スティーヴンスンはこの小説世界において、現実とは異なる仮想空間を「メタバース」、そこに投影される実体を「アバター」という言葉で表現した。

とはいえ、これはあくまでも「メタバースの語源」に過ぎない。メタバース的なVR空間はSF作品において定番だった。例えば1982年の映画『トロン』はVRの登場を予見するかのような仮想空間が登場する。また1985年の小説『エンダーのゲーム』では、コンピュータグラフィックによって生成された空間での戦闘が描かれる。

メタバースはいつから存在するのか

メタバースという概念が生まれたのは30年以上も前のこと。とはいえ当時は、まだSF小説が提示するユニークな想像力の一つに過ぎなかった。あらゆる面において自由度の高い、今のメタバースが実現するまでには、時代の流れを待つこととなった。

今日にいたるまで、さまざまなプラットフォームが生まれ、その一部は消えていった。それらすべてを網羅することはできないが、歴史の流れを一部紹介しよう。

MMORPGブームの到来

メタバースというと仮想空間的な側面ばかりに注目してしまうが、一方では「現実世界ではない空間に自らの分身を投影し、活動・交流できる」という特徴もある。このアバターと呼ばれる概念がここまで浸透した背景には、MMORPGの存在が大きい。キャラクターのカスタマイズや自由なコミュニケーションなど、メタバースに通底する要素をはらんでいたと言える。

https://www.youtube.com/watch?v=XezvTbfxgPw

MMORPGの元祖は「Ultima Online 」と呼ばれるオンラインゲームであり、オフラインミーティングなど実社会へのフィードバックも盛んだった。今のメタバースコミュニティにも通じるところが多く、メタバースの歴史を語る上で外せないプラットフォームの一つだと言える。

Second Lifeの登場

仮想世界というと「Second Life」を思い浮かべる人が多いほど、かつてこのプラットフォームは人気だった。2003年にサービスを開始し、メタバース的な仮想空間の先駆けとなったSecond Life。当時はMMORPGの派生系という位置付けだった。

画期的だったのは「敵を倒す」「クエストを進める」などの目的意識が前提になく、「仮想世界の構築」「自由度の高さ」「経済圏の創出」がコンセプトであった点。ユーザ間のコミュニケーションなど自由な活動に加え、デジタルコンテンツの制作・販売などといった経済活動も可能である。メタバースの先駆的存在だと言える。

オンラインゲームの流行

Second Lifeブーム以降、仮想空間を提供するオンラインゲームが急速に増えはじめる。たとえばマインクラフトファイナルファンタジーXIVなどは有名だろう。

メタバースがここまで世界的に受け入れられた背景には、オンラインゲームの普及がある。とくに「FORTNITE(フォートナイト)は近年のメタバースブームの基点でもある。若年層としたオンラインゲームの普及が、メタバースの流行を大きく後押しする結果となった。

2018年には同時接続プレイヤー数が830万人に達し、欧米の一部メディアでは社会現象とまで報じられたFortnite。ゲーム的要素もそれなりに強い作品ながら、自由度の高さゆえかゲーム以外の側面を楽しむユーザーも多い。

そしてメタバースブームに…

VR技術の発展とともに、VRchatclusterなどさまざまなプラットフォームが誕生した。2010年代後半以降、あることをきっかけに「メタバース」という言葉が世界的に浸透し、注目を浴びることとなった。

2021年末に「Facebook(フェイスブック)」が社名を「Meta Platforms (メタ・プラットフォームズ)」に変更し、「メタバース事業に力を注ぐ」と発表したのだ。これにより、世界中がメタバースに注目し、多くの企業が参入するようになった。メタバースブームの到来である。

ブームが続く一方で、現在は反動もある。2022年から2023年までの間にMetaは業績悪化により2万人以上を一時解雇した。またウォルト・ディズニー・カンパニーは2023年3月にメタバース部門を閉鎖するなど、早々に事業縮小を図る企業も少なくない。

メタバースが可能にすること

メタバースがさまざまな業界で注目されているのは、その技術が多くのことを可能にするからに他ならない。

では、具体定に何ができるのか。大まかには以下に挙げる3つのことに集約できる。

これまでのインターネットになかった「体験」

従来のインターネットにおいて、共有・取得できる情報は「文字」「画像」「音声」「映像」の4つのうちいずれかだった。メタバースが画期的なのは「空間」を共有できる点だ。

仮想現実空間は個人単位で生成でき、その空間に友人を招くことも可能である。こうした空間の共有によって、「体験」として情報が記憶される。

これは従来のインターネットにはなかった、新たな要素である。

自由度の高いコミュニケーション

オンラインコミュニケーションの手段は、時代が進むごとにより便利になっている。近年は文字での意思疎通に加え、音声通話やビデオ通話が可能なSNSも多い。

メタバースは、「対面」に近い形でコミュニケーションを取ることができる。身振り手振りを使い、実際に話しているかのような感覚で会話できるのが特徴だ。

文字や音声・ビデオ通話による意思疎通よりも、コミュニケーションの自由度が高いといえる。

創作活動や新たなビジネスの創出

メタバースはクリエイターが活躍する新たな表現の場としても注目されている。たとえばアバターや建築物などを制作するモデラーや、VR空間内で音楽活動を行う人も多い。

メタバースを表現活動の場としているクリエイターは年々増えている。

また、制作したアバターなど3Dモデルの販売、メタバースを介したネットショッピングなど、ビジネスとしての広がりも期待できる。

メタバースが流行したきっかけ

仮想現実空間における体験の共有やコミュニケーション、創作・経済活動が可能になるメタバース。前述の通り、その語源は1992年の小説『スノウ・クラッシュ』である。SFファン以外からはすっかり忘れ去られていたこの言葉は、どのようなきっかけで再浮上したのか。詳しく解説していく。

投資家マシュー・ボール氏による投稿

そもそもメタバースはなぜ注目を浴びたのか。

そこで既存のVR技術や仮想現実空間を表現するために使用されたのが「メタバース」という言葉だった。

メタバースの概念を世に知らしめ、新たなプラットフォーム、あるいはコンテンツメディアとしての可能性を示した彼のブログは、テック界隈に大きなインパクトを与えた。

FacebookからMetaへの社名変更

マーク・ザッカーバーグも、マシュー・ボールの直接的な影響下にあり、ブログを熟読したと表明している。

世界的にメタバースという概念が浸透したのは、2021年、マーク・ザッカーバーグ氏が社名を「Facebook」から「Meta(メタ)」に変更し、「メタバース事業に力を注ぐ」と宣言したことに起因する。以下は当時のイントロダクションだ。

メタバースが注目を集める理由・背景

メタバースが注目を集めるのは、さまざまな理由・背景が複合的にかみ合わさってのこと。技術的な進歩や社会の変化など、要因が重なって爆発的なブームを巻き起こしたのだ。ここからは、メタバースが注目を浴びる理由や、背景を一つひとつ紐解いていく。

VR/AR技術の発展

VR(Virtual Reality)とは現実世界とは異なる「仮想現実空間」を実現する技術である。メタバースが流行した一番の要因は、VRに関わる技術が急速に発展したからだといえる。具体的には、以下の要因が考えられる。

  • UnityやBlenderといった開発者ツールが使いやすくなったこと
  • VRデバイスが軽量・安価になったこと

こうした変化は2010年代後半以降、特に顕著である。スマートフォンの普及により小型ディスプレイやプロセッサーが大量生産されるようになり、それに付随してVR機器も安価で生産できるようになった。さらには軽量化やワイヤレス化など、利便性も向上した。

技術的、経済的な障壁がなくなり、テクノロジーに関心がない人でもVRを楽しめるようになった。そしてコンテンツが充実するようになり、VRを楽しむ人口も次第に増えていった。

新たなネットワークコミュニティへの期待

2020年以降、新型コロナウイルスの影響で行動が制限され、旅行やコンサートなどの娯楽をVRで体験できるサービスが拡大した。

また、ビジネスの分野ではリモートコミュニケーションが普及し、コロナ収束後も会議などでZOOMやSlackを利用するのが当たり前になった。

こうした社会の変化も、人々が違和感なくメタバースを受け入れるための土壌になった。

ビジネスの可能性が広がるため

これまでゲームのイメージが強かったメタバース。しかし2021年8月にMetaがリリースした「Horizon Workrooms(ホライゾン・ワークルームズ)」は仮想空間におけるセミナーや会議など、人々が会う「空間」を提供するサービスだった。

こうした展開を受け、メタバースビジネスの可能性に多くの企業が注目することとなった。

例えば渋谷で開催されたイベントやライブをVR空間で楽しめる「バーチャル渋谷」や、メタバース空間内でショッピングを楽しめる「バーチャル伊勢丹新宿店」など多くの業界がメタバース領域に参入している。

NFTの実用化

メタバースとNFTは相性が良いと言われています。NFTとは「非代替性トークン」の略で、ブロックチェーン上に構築され、所有や譲渡に関する記録が改ざんされにくい特性を持つデジタルデータのこと。

従来のデジタルデータは容易にコピーが可能であり、そのため価値がつきませんでした。しかし、NFTはブロックチェーン技術を導入すれば、複製できない「唯一の」デジタルデータを持つことができるようになります。

例えばアバターなどのデジタルアセットの売買が可能になります。複製されない、自分だけのアバターに対価を払う人も少なくありません。

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