近年広がりつつある「メタバース」。仮想空間上でさまざまな人とコミュニケーションを取る技術だ。
その技術を就職活動に取り入れた「メタバース就活」の登場により、従来の就活スタイルが大きく変わりつつある。
「メタバース就活」とは
「メタバース就活」とは、メタバースの概念・技術を取り入れた就職活動のこと。
リモート就活が浸透しつつあるが、会話が弾まない、情報が限られるなど課題が多い。
そんな中で注目されているのが「メタバース就活」だ。昨今ではメタバースを活用した合同企業説明会が行われるなど「メタバース」×「就活」の成功例は続々と生まれている。
メタバースを活用した就活イベントの事例
「メタバース」を取り入れた就活イベントの中には、スマホやパソコンがあれば気軽に参加できるものが多い。
ここでは、VRゴーグル等がなくとも参加できるメタバース就活イベントの事例を見ていきたい。
メタバース新卒採用EXPO 2024・2025
メタバース新卒EXPO2024・2025は、
就職支援会社「ネオキャリア」と、メタバース事業を展開する「X」が共催する大規模就活イベント。
【第1回】2023年1月27日・28日 179社出展
【第2回】2023年5月29日〜6月30日 500社以上(出展見込み)
回を重ねるごとに規模が拡大しており、「メタバース就活」に対する学生・企業の関心の高さが分かる。
CAREER THEATER
出典:NPO法人エンカレッジ
CAREER THEATERは、NPO法人エンカレッジが開催する大規模キャリア講演イベント。
オフライン開催、オンライン開催を経て、2022年以降はメタバース上で行われている。
・初のメタバース開催時には10,000人以上を動員
・直近の開催は2023年5月14日〜21日
・世界最大手やGAFA企業など、20社以上・18業界が集結
大手企業からベンチャー企業まで、各業界のトップランナーが講演講師として登壇。
学生は講演を通して、仕事選びや人生の指針が得られる。
tayo EXPO
出典:株式会社tayo
tayo EXPOは、株式会社tayoが主催する合同企業説明会。
・大手からベンチャーまで最先端IT企業が出展
・メインターゲットは全国の理系の大学院生
・直近の開催は2023年1月13日・21日
住んでいる土地に関係なく参加でき、各IT企業の人事担当者、技術者や研究者と話せる、理系学生垂涎のメタバース就活イベントだ。
メタバース就活が注目を集める理由
なぜ”就活の新たな選択肢”として注目されているのだろうか。
「メタバース」と「就活」は、時代とマッチした組み合わせなのである。
従来の就活といえば、主体性やコミュニケーション力が高いほど有利だが、そうでなければ選考前の段階から不利になりやすいという側面がある。
このような”格差”を解決する役割を期待されているのが「メタバース就活」なのだ。
VR空間なら、全員がアバターなので実名を明かす必要がない上、チャットで意思疎通ができるので、会話に消極的な人でも企業担当者と接点を持ちやすい。
メタバースの匿名性がもたらす安心感が、面と向かっての自己アピールに苦手意識を持つ就活生のニーズと合致したのである。
メタバース就活のメリット
対面形式やリモート形式と比較すると、メタバースがいかに従来の就活スタイルの弱点を克服しているかが分かる。
ここでは、対面・リモートとの違いに着目しつつ、メタバース就活の具体的なメリットを5つに分けて解説する。
移動時間をかけずにすむ
メタバース就活は、スマホやパソコンなどの機器で事足りる場合が多く、アバターで十分意思疎通ができる。そのため、わざわざリクルートスーツに着替えたり、開催地やオフィスに移動する必要もない。体力・時間・金銭面のコスト、疲労感が大幅に減らせるのが利点だ。
効率よく情報収集できる
対面形式の企業説明会だと「一日で4.5社しか回れない」「気になっている企業公演に定員超過で参加できない」など、時間や人数の制約が大きかった。メタバース上ならそうした制限に左右されず、興味があるブースをいくつも巡り、知りたい情報を自由に得られるので、自由度高く、効率良く情報収集ができる。
臨場感
リモートでは、企業側のカメラの視点でしか視覚的な情報が得られないこともあり、参加意識が薄くなりやすい。メタバース上であれば、本当にその場にいるかのような没入感が味わえる上、他の就活生の動きも分かるので、リモート以上の”参加してる感”が持てる。
通信環境によるストレスから解放される
リモート就活は、通信環境による映像・音声トラブルに見舞われやすい。全体の進行を妨げてしまい、企業担当者の心象にも影響を与える可能性が常に付き纏うので、就活生の負担が大きい。VR空間ならば、自分の通信環境で他人に迷惑をかけることはないため、オンライン就活特有のストレスを回避できるのだ。
企業担当者に率直な質問ができる
実名・顔を知られずに企業担当者とコミュニケーションが取れるので、給与や福利厚生など、本来なら聞きづらい質問がしやすい。「そんなことを聞くなんてと思われるのでは」「選考に影響したらどうしよう」と心配したり、本当に知りたい情報を聞けないまま就活を続けたりすることがなくなる。
メタバース就活のデメリット
ここまで紹介してきたように、メタバースは従来の就活の課題を解決する可能性を秘めている。しかし、メタバースだけで万全な就活ができるわけではなく、一部の人にとっては大きな恩恵にならない場合も考えられる。
ここでは、メタバース就活のデメリットを3つに分けて紹介する。
企業の雰囲気がわかりづらい
メタバース上だけでは、会社の気風や社員の人柄など、実際の企業の雰囲気を体感しづらい。一通り情報を収集したら、自分の目で会社を見て、社員の人とコミュニケーションを取る方が、入社後のイメージを具体的に浮かべやすいと考えられる。
対面コミュニケーションが得意な人にはプラスに働きにくい
メタバース上でのやり取りは、コミュニケーションのハードルを下げる反面「相手に自分を覚えてもらいにくい」側面もある。積極性があり、自分をアピールするのが得意な人は、対面形式の方が自分の持ち味を発揮しやすいことも十分考えられるので、状況や主旨に応じて対面・メタバースを使い分けるといいだろう。
メタバース就活だけではミスマッチになり得る
メタバース上で就活を完結させると、オフィスに一度も出向くことがなく、職場の雰囲気を知らないまま入社することになり、入社後にミスマッチを感じる可能性がある。「思ってたのと違う」を最小限に抑えるためにも、対面とメタバースの両方を活用するのが最適と思われる。
終わりに
メタバース就活のメリット・デメリットと共に、メタバース技術を取り入れた就活イベントの事例を紹介した。
従来の就活スタイルでは、収集できる情報が限られ、有利・不利の格差も生まれやすい。「メタバース就活」を上手く活用すれば、自分に合った就活スタイルを築き上げ、進路の幅や戦略も広がるだろう。