最近注目を集めている「メタバース」。ゲームで使われるイメージが強いが、旅行・観光業でも活用されているのをご存知だろうか。
名だたる大手企業、気鋭のベンチャー企業がメタバース関連のサービスをリリースするなど、大きなムーブメントが起こっている。
旅行・観光業界でメタバースが注目される理由
新型コロナで打撃を受け、変革を余儀なくされた旅行業界は「メタバース」に突破口を見出した。
人との接触や移動を回避でき、本当にその場にいるかのような体験ができる。メタバースは、コロナに揺らぐ旅行・観光業の、業界変革ニーズに十分応えていたのだ。
コロナが収束しつつある現在も、メタバースの需要は高い。「町おこし」にも活用され、通信環境の発達もあり、仮想空間はますます快適になっている。
また驚くべきことに、旅行・観光業界はメタバースの活用で、やがて200億ドル超の市場規模に達するとの試算も出ている。
マッキンゼーは5月4日、旅行業界におけるメタバースの可能性を分析するレポートを公開し、200億ドルを超えるポテンシャルがあると指摘した。
引用元:旅行業界のメタバース、可能性は200億ドル超−マッキンゼー
旅行・観光業界がメタバース活用によって得られる効果
観光業界のメタバース活用には、以下の3つの効果がある。
ここからは、上記3つの効果を詳しく解説する。
潜在顧客に向けた訴求効果
メタバースを活用すれば、関心の薄い人にも魅力を訴求できる可能性がある。
例えば、各所でメタバース機器を設置して、観光地の疑似体験を促すという手法が考えられる。
有名人やアニメ作品とコラボしたメタバースイベントを開催したり、参加者特典でクーポンを配布したりするのも、認知度向上に効果的だろう。
旅行中の体験を豪華にする効果
旅行滞在中のAR・MRコンテンツ活用で、さらに印象深い非日常体験ができる。
ARとは、現実にバーチャル空間を重ねる技術、MRは双方を融合させる技術だ。
コンテンツを充実させるほど、その観光地ならではの”そこでしかできない体験”が作り出され、旅行者による経済効果の拡大も見込まれる。
リピーターを増加させる効果
一度訪れた観光客を”リピーター”にするために重要なのは、「また行きたい」と思わせることだ。
普段は入れない施設、シーズン限定の地元イベントなど、旅行中の体験が難しいものをメタバースコンテンツとして提供するのも手だ。
さらに、それがSNSでシェアできるほどの体験だと、旅行が終わってからも満足感が持続する。
【企業】旅行・観光業界のメタバース活用事例5選
以上で示した通り、旅行・観光業界におけるメタバース活用には、さまざまな効果がある。
旅行が始まる前から終わった後と、中長期にわたって強い印象を与え続けるのだ。
実際、旅行・観光業界へのメタバース導入は急速に進んでおり、大手企業や有力ベンチャー企業が、メタバース関連のサービスを続々とリリースしている。
続いては、旅行・観光業界におけるメタバースの活用事例を5つにわたって紹介していく。
ANA:ANANEO
出典元:ANA NEO株式会社 ANA GranWhale
ANAグループ傘下であるANA NEO株式会社が運営するメタバースプラットフォーム。「Skyパーク」(旅のテーマパーク空間)、「Skyモール」(ショッピング空間)、「Skyビレッジ」(未来の街をイメージした空間)の3つのサービスを展開。利用者はVR空間上で旅先の景色や文化、買い物を楽しみ、現実と仮想空間を行き来しながら旅行体験ができる。現在は台湾、香港などアジア一部地域で先行ローンチされており、今後はさらに広く展開していくと予想される。
株式会社MATRIX:どこでもドア
出典元:株式会社MATRIX どこでもドア
どこでもドアは、株式会社MATRIXが展開する「メタバース空間共有プラットフォーム」。「出会って・集まって・楽しむ」をコンセプトとしており、誰でも無料でイベントを主催でき、どのイベントにも参加できる(一部有料)のが特徴。カラオケ、リラクゼーションセラピーなど、ジャンルを問わず多彩なイベントが日々開催されており、VR旅行の企画・参加も当然可能だ。
marriott bonvoy:バーチャルホテル
出典元:Madrid Marriott Auditorium Hotel & Conference Center
世界的ホテルチェーンとして有名なマリオット・インターナショナルに属する「マドリード マリオット オーディトリアム ホテル」は、ホテルやカンファレンスセンターをメタバース空間に再現。宿泊を検討する旅行者は、PCやヘッドセットがあれば、現地に行かずとも施設内を見学でき、宿泊前の下見をすることができる。ホテルのWebサイトや口コミとは異なる、詳細な情報を得られるので、実際に泊まった時のミスマッチ感を最小化できる。
日本博:バーチャル日本博
出典元:バーチャル日本博
文化庁によって推進されている、日本の文化・芸術の祭典プロジェクト「日本博」。それを仮想空間で体験できるのが「バーチャル日本博」だ。自然に囲まれたVR空間の中で、日本が誇る文化、芸術、伝統芸能など、気になったものを自由に見て回ることができ、日本の魅力を再発見する機会にもつながる。コンテンツは今後も拡大していく予定だ。
琴平バス:コトバスオンラインツアー
出典元:琴平バス株式会社 コトバスオンラインツアー
香川県の琴平バス株式会社が展開する「コトバスオンラインツアー」は、現地の魅力を知り尽くしたガイドによる案内が魅力。家にいながら本格的な旅気分が味わえ、道の駅に立ち寄る際にはECサイトが紹介されるなど、消費行動が喚起される要素も散りばめられている。これまでメイン客層ではなかった年代にも認知・人気が広がるなど、従来のバスツアースタイルに一石を投じた好事例と言えよう。
メタバースを旅行・観光業界で活用するメリット
ここまで、旅行・観光業界にメタバースが導入された事例を4つ紹介してきた。
世界規模のものから、地域密着のものまで、スケール感を問わず活用できる自由度の高さが分かっていただけたと思う。
では、メタバースを旅行・観光業界で活用するのには、具体的にどのようなメリットがあるのか。
以下、メタバース活用による恩恵を4つに分けて解説したい。
時間・場所に左右されずにアクセスできる
メタバース空間は、スマホやPCがあれば、時間や場所に関係なく誰でも自由にアクセスできる。
つまり「旅行に行きたくてもいけない人」も等しく旅行体験ができるということであり、高齢者や障害を持つ人にも旅行の機会を提供できるのだ。
天候や季節の影響がない
悪天候は、旅行のよくあるアクシデントの一つだ。「せっかく来たのに雨が降って絶景が楽しめなかった」という人も多いだろう。
しかしメタバース上であれば、天候や季節を心配する必要はない。
移動に苦労することもないし、ベストシーズンで現地の絶景を楽しむことができる。
外的要因に左右されず、最後まで自分の旅行プランを実行できるのだ。
リアルでの観光客増加にもつながる
メタバース空間上で呼び込んだ観光客は、現実世界で「リピーター」となって現地を”再訪”する可能性がある。
行く前には関心がなかったが、メタバースでその地の魅力に触れたことで興味が増し、後日自分の足で訪れたという人は多い。
そうした体験者の口コミが広がれば、より多くの人に関心を持ってもらうことにもつながり、魅力が周知されていくだろう。
ご当地商品・名産銘品の販売など経済効果がある
メタバースで観光地の魅力を訴求できれば、そこでしか買えないご当地商品、名産品にも観光客の関心が向くだろう。
その地ならではの名産銘品をアピールし、購入可能なECサイトなどに誘導することで、購買意欲を喚起できる。
従来のメインターゲットではない層にも魅力を伝えるチャンスにもつながるので、大きな経済効果を見込める。
メタバース観光は旅行者にもメリットがある
以上の通り、メタバースは旅行・観光業界にいくつものメリットを与える。
時期や予算といった、旅行意欲を削ぎかねない要素を克服する可能性に溢れているのだ。
そしてメタバースは、旅行者に対してもさまざまな利点があり、従来の旅行スタイルを大きく変えると考えられている。
具体的にどのような利点があるのか、以下の3つに分けて解説する。
普段は行けない場所にもアクセスできる
観光地には、普段では訪れることができない文化遺産や自然エリアが存在し、そうした場所に「いつか行ってみたい」と望む人も多いだろう。
それらがVR空間上に再現されれば、メタバース旅行者はかつてない旅行体験ができる。
メタバースを活用すれば、実際には見ることのできない景色や展示物に触れ、旅行の楽しみをますます深めていけるだろう。
実際の旅行よりもコストがかからない
旅行には時間的・金銭的なコストがつきものであり、それを理由に旅行を諦める人も一定数存在する。
しかしメタバースなら、日取りや時間を選べるのはもちろん、無料で楽しめるVR旅行ツアーや、数千円程度で本格的な旅気分を味わえるプランも楽しめる。
最小限のコストだけで、国内外を問わず自由に訪れることができるのだ。
メタバースにしかないイベント
メタバース形式で開催される各地PRイベントには、参加することでより楽しく旅行体験ができるものがある。
クーポンが配布されたり、その地にまつわる著名人やサブカルチャー作品とコラボイベントが実施されたりと、メタバース空間だから得られるお得感や体験が充実しつつある。
気になる観光地があれば、その地で行われているメタバースイベントがあるか探してみるといいだろう。
終わりに
本ページでは、旅行・観光業界におけるメタバースの活用事例とメリットを解説してきた。
メタバース自体が進化の途上にある最先端技術であり、通信技術が発展すれば、メタバース空間はますます快適になり、老若男女問わずさまざまな世代に浸透していくだろう。
高度な疑似体験が可能になるほど、メタバース旅行は、従来タイプの旅行に代わるほどの存在感を増していくであろうことは、想像に難くない。メタバースと組み合わせることで、生み出されるシナジーは未知数だ。